【全員聖母マリア】メスだけで増える爬虫類のはなし

【全員聖母マリア】メスだけで増える爬虫類のはなし

私たちが自分の子孫を残すためにはオスとメスが必要。これは当たり前のルールですよね。

「誰がこんなルールを決めたんだ」という非モテの方たちもいることでしょう。でも安心して下さい。実はこの常識を打ち破る方法があります。それが単為生殖です。

今回はその単為生殖について話をしたいと思います!

【寄稿】キリン

そもそも単為生殖ってなに?

私たちが子孫を残すためには,メスの卵 (らん) とオスの精子が受精して受精卵ができなければなりません。受精卵が成長することで子の身体がつくられます。

一方で単為生殖というのは,卵が受精することなく成長して身体がつくられる生殖方法のことです。

つまりメスだけで子孫を残すことができるということです。

一部の生き物たちはこの方法によって子孫を繁栄させてきました。これらの種は単為生殖種と呼ばれています。

単為生殖によって子孫を残す生き物たち

単為生殖は,セイヨウタンポポ,ミジンコ,ミツバチ,ギンブナ,トラフサンショウウオ...と植物から動物まで様々な種で確認されています。

爬虫類においても1958年にイワカナヘビ (Lacerta saxicola) の亜種で初めて単為生殖種が確認されて以来,単為生殖をする種が次々と発見されました。

日本の爬虫類では,ブラーミニメクラヘビ (Ramphotyphlops braminus) や小笠原諸島に生息するオガサワラヤモリ (Lepidodactylus lugubris) といった種が,メスだけの単為生殖種として知られています。

一体どのようにしてメスだけで繁殖しているのでしょうか?

ブラーミニメクラヘビ (Ramphotyphlops braminus)

 photo credit: hankplank Blind Snake: Ramphotyphlops braminus via photopin (license)

 体長15~20cmほどの,世界で唯一の単為生殖ヘビ。一見するとミミズ。地中で生活することからミミズヘビと呼ばれている。それはもうミミズやん?

 

(ΦωΦ) 鳥類・哺乳類は単為生殖できるの?

鳥類では七面鳥で単為生殖が確認されていますが,単為生殖”種”というよりは単為生殖することもあるといった感じ。

哺乳類においては,研究によってマウスの単為生殖が成功していますが,これも単為生殖種とは言えないですね。高等生物になるほど単為生殖はできなくなっている様子。

ともあれ,今のところヒトで単為生殖は無理です。この理由についてはまた別の機会に話したいと思います。

ヒトのような両性生殖種の受精卵のでき方

私たちのようにオス・メスからなる種のことを両性生殖種といいます。まずは両性生殖種の受精卵のでき方を見てみましょう。

 卵のでき方の簡略図 Illustration by キリン

 染色体の複製,相同染色体の対合・組み換え,二回の減数分裂を経て卵ができる。実際はもっと複雑。

メスでは,はじめに細胞で染色体の複製 (コピー) が起こります。次に相同染色体間で対合が起こり,染色体の一部が組み換えられます。その後,2回の減数分裂が起き,これが卵になります。

 精子のでき方 Illustration by キリン

 基本的に卵のでき方と同じなので過程の図は省略した。

オスでも同様に,細胞で染色体の複製,2回の減数分裂が起き,精子ができます。

 受精の1例 Illustration by キリン

 染色体の組み合わせによって生まれてくる子が引き継ぐ遺伝子が変わる。

メスの卵とオスの精子が受精すると,これらの細胞が一つになり,2本1組の染色体をもった受精卵ができます。

(ΦωΦ) 染色体ってなに?

DNAはめちゃくちゃ長いです。ヒトでは2mくらいあります。細胞内ではDNAが折りたたまれ,染色体として存在しています。

私たちは母親と父親から同数ずつの染色体を引き継いでいます。これにより母親と父親の特徴が引き継がれます。染色体は母親由来と父親由来の2本で1組,これが何組かあります。組になる染色体は同じ形をしており,これを相同染色体といいます。

複製によってできた染色体は姉妹染色分体といいます。

 細胞内の染色体 (A) と複製後の染色体 (B) Illustration by キリン

 (A) 通常は父親由来の染色体と母親由来の染色体を1本ずつ,2本で1セットとなっている。この2本の染色体は形が同じで相同染色体という。 (B) 複製された染色体を姉妹染色分体という。

(ΦωΦ)対合・組み換えって?

複製の後に染色体同士がくっつく作用のことを対合といいます。

対合した染色体の一部は交叉し,そのまま入れ替わります。このことを組み換えといいます。組み換えが起きると親とは異なる染色体になるので,多様性が生まれます。

(ΦωΦ)減数分裂ってなに?

減数分裂は細胞分裂の一種。

細胞が増えるときの分裂 (体細胞分裂) は細胞のコピーができるイメージ。染色体もコピーされます。

一方で減数分裂は,分裂時に染色体の数が半分になります。

第一減数分裂では対合・組み換えが起きた染色体が引き離され,分裂します。

第二減数分裂では姉妹染色分体が分離します。

この結果,4つの細胞は全て異なる染色体をもつことになり,遺伝子の多様性が生みだされます。

単為生殖種の卵のでき方

単為生殖種ではどのように卵ができるのでしょうか。

単為生殖にはいくつかの方法があり,生き物によって異なります。

爬虫類の単為生殖方法では,細胞が減数分裂する前に染色体が倍数化 (染色体が倍に増加) します。

その後,相同染色体間または姉妹染色分体間で対合・組み換えが起こります。

 Illustration by キリン

 単為生殖トカゲは減数分裂の前に染色体の倍数化がおき,相同染色体間または姉妹染色分体間で対合がおきる。

相同染色体間で対合が起きた場合,減数分裂を二回経て,親とは異なる染色体をもつ卵ができます。

 Illustration by キリン

 相同染色体間での対合。生まれる子供は親と遺伝的に異なる。

姉妹染色分体間で対合が起きた場合,減数分裂を二回経て,親と同一の染色体をもつ卵,つまりクローンができます。

 Illustration by キリン

 姉妹染色分体間での対合。生まれる子供は親と遺伝的に同一のクローン。

減数分裂の前に染色体が倍数化したことにより,減数分裂が二回起きても通常の染色体数となるのがポイントです。

実際には相同染色体間よりも姉妹染色分体間での対合がおきるようです。

単為生殖から考える生存戦略

自然界における「オス」の存在意義

このままだと「メスだけで子孫ができるならオスいらなくね?」ってなってしまいそうなので,最後にオスの必要性とそれに対する単為生殖の生存戦略について話しておこうと思います。

両性生殖は,メスの遺伝子とオスの遺伝子を引き継いだ子が生まれるわけで,これにより遺伝的多様性が生まれます。

具体的には,暑さに強い個体,寒さに強い個体,ある病気に強い個体,別の病気に強い個体...など多様な個体が生まれてきます。

様々な個体がいれば,気温の変化,病気の流行などの環境変化が起きても,それに対応できる個体が生き残るため,その種は存続しやすくなります。

というわけで多様性を生むためにもオスは必要です。むしろ多様性を生むために「性別」というルールができたのかもしれません。

単為生殖をする最大のメリットとは?

では,単為生殖はどうなのか。率直に言うと単為生殖種は環境変化に強くありません。

しかし,彼女らは1個体でも増えることができます。ある1匹が新たな土地に侵入したとき,その環境が適切であれば,その1匹から子孫を繁栄させることができます。このようにして生息域が広がっていきます。

実際に,先ほど紹介したブラーミニメクラヘビはほぼ全世界の熱帯・亜熱帯地域に分布しています。

この方法によって生息域を広めることで,ある土地の環境が変化しても,別の土地で種を存続できるようにしているのです。

これが単為生殖種の生存戦略というわけです。両性生殖,単為生殖のどちらが有利というわけではありませんが,今後地球規模で変わっていく環境変化に彼らがどう対応していくのか,気になるところです。


【参考文献】

『遺伝子から解き明かす性の不思議な世界』
著:田中実 一色出版 2019年2月初版

魚から人まで、様々な生物の性に関する学術的な本。比較的新しく、内容も最先端なのでおすすめです!

爬虫類の進化(Natural History Series)
著:疋田努 2002年初版

爬虫類の形態や生態学を詳しく記した学術的な本。爬虫類学を学びたい人におすすめです。

 


【編集者】

本記事はキリン氏が執筆、寄稿し、あざおまーとが編集しました。

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