「生物の寿命は何で決まるか」がんと寿命の意外な関係

「生物の寿命は何で決まるか」がんと寿命の意外な関係

突然ですがみなさんは自分の寿命,わかるとしたら知りたいですか?

少なくとも今現在では自分の寿命を知ることはできません。

ただ,この数十年で人間の寿命は急激に伸び,それに伴い「寿命のメカニズム」も解明されてきています。

今回は最新の研究で明らかになってきた,「寿命のメカニズム」をわかりやすく解説していきます!

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寿命は何で決まるのか

①心拍数と寿命の関係

人間の本来の寿命とは?

一般的に生き物の寿命はそれぞれの「心拍数」に応じて決まるという傾向があります。

例えばネズミなどの心拍数が多いためあまり長生きはできませんが,カメなどは心拍数が少なく非常に長命です。

人間はというと,今でこそ80歳を超えても不思議ではない時代になりましたがそれはごく最近のことです。大正時代は平均寿命は40代でしたし,戦国時代以前までさかのぼると30代にも満たない数字になってきます。

ただしこれは昔の環境が劣悪だったためとは限らないのです。

哺乳類では約20億回心臓が拍動すると限界という説があります。人間の平均的な心拍数をあてはめると平均寿命は50歳くらいということになるのです。

織田信長の「人間50年」という言葉にもあるとおり,まさに50年で天寿を全うというのが人間の本来の姿なのです。

人間の寿命の限界は?

一般的に運動をすると心拍数って上がりますよね?

なら,全く運動せずにゆっくり生きた方が長生きできるのでしょうか?または生まれつき拍動がゆったりしている人の方が長生きできるのでしょうか?

答えはNoです!

むしろ運動をしない人は「がん」や「生活習慣病」の罹患リスクが上がるという研究結果もあるそうです。

人間の寿命には限界があります。亀くらいの心拍数を保てたとしても200年生きられることはできません。

その理由がテロメア問題です。

②テロメア問題

テロメア問題について簡単に解説

テロメア問題とは一言でいうと「細胞分裂の回数制限」です。

私たちの体は無数の細胞からできています。そして日々細胞分裂を繰り返しながら体を「更新」しています。

そのおかげで私たちは日々大きな変化を感じることなく現状を維持できるのです。

細胞分裂の際にはDNA(染色体)を複製し,2倍にすることで元の性質を増えた細胞にも受け継いでいます。この染色体の先端を守っているのが「テロメア」です。

そして私たちの染色体は細胞分裂のたびに短くなります。

染色体がテロメアの部分まで短くなってしまうと,もうこれ以上分裂できず,その細胞は死を待つのみということになります。これが「細胞老化」です。

ある細胞の死が,即時に個体の死を引き起こすわけではありませんが,老化した体にはこの老化細胞が多くみられます。寿命と細胞老化には何らかの関係があるというのは間違いなさそうです。

人間のテロメアから計算すると細胞分裂は約50回で限界を迎え,その最大寿命は約120歳になります。これが人間の寿命の限界になるのでしょう。

テロメア問題を回避できれば解決?

こればかりは現代医療をもってしても正解はわかりません。

ただ良いことばかりではなさそうです。

じつは「がん細胞」にはテロメア限界がありません。

がん細胞には「テロメアーゼ」という酵素があり,短くなった染色体を伸ばすことができるのです。従って細胞分裂の回数に制限はありません。

がん細胞が無限に増殖してしまい,転移を起こしてしまう一因に,この特徴があります。

もし私たちの細胞が無限に分裂できるようになってしまうと,細胞過多で体がおかしくなってしまうことでしょう。テロメア問題は細胞の入れ替わりを促す重要な機能なのです。

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③体の大きさと寿命の関係

アロメトリー式とは

心拍数と寿命の関係に関連して「体の大きさ」も寿命と相関関係にあることがわかっています。

生き物の体の大きさとそのほかの指標の相関関係のことを専門用語で「アロメトリー」と呼びます。今回は寿命との相関を軽く紹介します。

「寿命は体重の1/4乗に比例する」という関係が知られています。つまり,軽い動物ほど寿命は短く,重い動物ほど寿命は長くなるという法則です。

この法則は案外当たっていて,グラフ化するとほとんど大きくずれる生き物はいないです。(しいて言えば現代の人間くらい)

そう考えると現代の医療というものは本当にすごいですよね。

④クローンの考え方(女王バチの場合)

個体の死とDNAの死

クローンという言葉はみなさんわかると思います。

「同一の遺伝子を持つ個体」のことで過去にはクローン羊「ドリー」などがいました。現在は倫理的な観点から勝手にクローンを作ることは禁止されています。

しかし世の中にはクローンを残せる生き物が存在します。タイトル通り,女王バチです。

女王バチはオスと交尾した後,受精卵と未受精卵を産み分けることができます。そして受精卵からはメスの働き蜂が産まれます。未受精卵からはオス蜂が産まれます。

オス蜂は未受精ということでお父さんがいません。意味的には「女王バチのクローン」ということになります。

仮に女王バチが死を迎えたときに,これは個体の死ではありますが,そのDNAはオス蜂に残されていますのでDNAの喪失には至っていないという考え方もできます。

DNA的には死んでいないのでは?という考え方もできるのです。

寿命=進化?

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人間にはどうして寿命があるのか

幼いころには,「死ぬのが怖い」と泣いていた人も多いのではないでしょうか?私もその一人でした。

大人になりその恐怖は少し和らぎましたが,どうして人間を含め生きる者には死があるのでしょうか。

次の世代のために死ぬ

これは当たり前のことですが,次の子どもたちが生まれてくる限り私たちは死ななければなりません。でないと地球上が人間で埋め尽くされてしまいます。

また地球上の環境は一定とは限りません。変化に対応するためには,弱いものは死に,強いものだけが生き残るということを繰り返す必要があります。

これが「進化」です。

種の存続のために,環境に適応できたものだけが生き残り子孫を残した結果,今の人間をはじめとする生き物たちがあるのです。

進化の結果獲得した「寿命」

アメーバなどの単細胞生物は細胞分裂によって増殖します。事故や捕食による死はあるものの,寿命という概念はありません。

しかし私たち進化とともに高等な生活を手に入れて,同時に寿命という制限を自らに課しました。これは種を守るために戦略だったのです。

寿命によって死んでいく代わりに,新しい「遺伝子型」を持つ子どもが次々生まれてくるようにしたのです。そして環境により適合する遺伝子型を持つ個体が現れると,生存が有利になるためその遺伝子型が次世代へと引き継がれていくのです。

長寿な生き物

哺乳類の中では人間はかなり長生きな方です。しかし,人間より長生きな哺乳類も世の中には存在します。

例えばホッキョククジラが挙げられます。個体差がかなり大きいのですが200年生きられる個体もいるのです。

200年前というと日本は鎖国まっただなか。異国船打払令が出されたころです。そんな昔から生きているクジラとは驚きですね!

またこれはあまり知られていませんが,ウニは思いのほか長生きで200年近く生きられます。

また寿命とは少し違う話になりますが,クラゲの一種「ベニクラゲ」は若返りの能力を持っているため,実質的には

不死身

ということになります。

短命な生き物

短命といえば,「ウスバカゲロウ」「セミ」を思い浮かべるかもしれません。

しかし短いのはあくまで「成虫」の期間です。カゲロウはともかくセミは種類によっては幼虫の期間が13年近くあるものもいます。いわゆる素数ゼミですね。

それ以外ではラボードカメレオンという種類のカメレオンが短命です。その期間約4か月ほど。非常に短いですよね。

まとめ

・細胞は分裂回数に限りがあり,最終的には老化するため最長寿命が決まっている。

・生物種間では心拍数と寿命に相関関係がある。

・進化して高等な生活を手に入れた代償に,種の保存のために寿命が発生した。

寿命を可能な限り伸ばすには,やはり健康でいることが大事です。

また,いくら長生きできても病気に苦しんでいてはつらいですよね。

人間の最長の寿命が120年であることを考えると,現代の医療はまだまだ発展の余地があります。将来が楽しみですね!